簡単操作で殺人事件を追う探偵視点に自然と没入し、クリア後に「人間の『正気』と『狂気』の境界はどこにあるのだろうか?」と思わず自問してしまう・・・。
そんな「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」の感想です。
1 ”大人” にこそ楽しんでもらいたい
ゲームやアニメ、小説などの娯楽作品に、最後にのめり込んだのはいつ頃だっただろう?
我を忘れ、時間の感覚が消し飛ぶほどに ”何かに熱中する経験” が、今は昔となり、いつのまにか忘れ去り、ときおり「懐かしい」と思い出す程度になる。
それは、何も知らなかった「子供」がいろいろな経験を経て大人へと成熟し「新鮮さ」を感じることが減ったのかもしれないし、あるいは、責任ある「大人」として日々の生活や仕事に励む半面、物理的な時間や精神的な余裕がなくなったのかもしれない・・・。
こんな感じで、私自身、大学以降の15年ほどはゲームからも遠ざかっていました。
ただ、30代半ばで何気なく始めたスマホゲームにドはまりし、何をトチ狂ったか「いい大人がそこそこマジで課金したらどうなるのか?」と思い立ち、約2年で新車一台分くらいの金額をガチャにつぎ込んだりもしました。
そのスマホゲームは間もなくサ終したのですが、特にコレといった趣味もなかった私は後悔することもなく、むしろスッキリしたというか。
(金額だけでいえば、海外旅行だのクルマだのパチンコだのといった趣味と大して変わらないと思いますし)
刺激に飢えてたんですかね?(笑)
それが呼び水になったのか徐々にゲームに触れる機会が増え、昔のようにがっつり遊び込むゲームにもいくつか出会えました。
いや〜さすがに10年以上も空くとゲームの進歩も尋常じゃなくて、やっぱり『ゲーム体験そのものの新鮮さ』を強く感じます。
ということで、今回は「ここ数年、娯楽作品を『がっつり楽しむ』ことから遠ざかっているなあ」という人向けに、『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』(Nintedo Switch)の感想をお伝えしたいと思います。
2 ゲーム内容
ある朝、男子中学生が遺体となって発見されるが、その頭には不気味な笑顔が描かれた紙袋がかぶせられていた・・・。
この奇怪な事件を端緒に、プレーヤーは探偵として事件の真相を追って行くという、いわゆる「テキストアドベンチャー」ゲームです。
ネタバレなしで本作がどんなゲームかをひと言でお伝えするならば、
簡単操作で殺人事件を追う探偵視点に自然と没入できるとともに、「人間の『正気』と『狂気』の境界はどこにあるのだろうか?」と思わず自問してしまう作品
だと思います。
お話のジャンルは「ファミコン探偵倶楽部」ではお馴染み?の不気味さ(怖さ)とコミカルさを基調としつつ、メインビジュアルの雰囲気のとおり要所で不安や緊張をあおる「サスペンスもの」です。
前作「うしろに立つ少女」はホラー寄りでしたが、今作「笑み男」ではホラー要素は控えめです。
<「笑み男」の魅力>
- ①親切設計のゲーム操作とフルボイスでのストーリー展開で、映画を見るような感覚でゲームを進められる。
- ②細切れの短時間プレイでもストーリーをすぐに思い出せる機能が充実しており、時間がない人にも配慮。
- ③クリア後に「人間の正気とは?狂気とは?」と思わず自問したくなるような引き込まれるストーリー展開で作品に没入できる。
まず、ゲームシステムは「見る」「話す」「調べる」といったコマンド選択型のきわめてオーソドックスなスタイルです。
本作ではあまり複雑な手順を要求されることはなく、ゲームオーバーも自分がプレイした限りでは経験しませんでした。
また、重要な場面ではキーとなるコマンドがハイライトされる(これは設定でオン/オフ切り替え可能)ので、いわゆる「詰まったら総当たり」で時間を食うこともなく、映画やアニメを視聴している感覚に近かったです。
このように「謎解き」や「ミニゲーム」という意味でのゲーム性は高くないので、本作は「テキストアドベンチャー」というよりは「ノベルゲーム」と言った方がしっくり来るかもしれません。
しかし、豪華声優陣によるフルボイスとアニメーションのほか、プレーヤーの選択に合わせた効果音や音楽の変化などゲーム操作と連動した演出が秀逸で、「ノベルゲーム」としても私はかなり楽しめました。
特に声優陣は、主人公役の緒方恵美さん、あゆみちゃん役の皆口裕子さんをはじめ、各務立基さん、斉藤壮馬さん、大塚芳忠さんなどなど、もう「どこの大規模アニメプロジェクトだよ」というメンバーです。
ゲームの進行度に合わせて、都度、事件に関する情報が自動的に追記・更新される「手帳」機能があるので、何か新情報が出てきたときに「あれ?アイツこれに関してどんなこと言ってたっけ?」といった確認がすぐできます。
そのおかげで、登場人物が増えてきて話が複雑になる中盤以降も、事件の全体像や各人物の立ち位置を把握しながらストーリーを進められました。
また、ちょっと忙しくて1週間くらいゲームプレイできなかったという場合でも、ゲーム再開時にそれまでの「あらすじ」を確認するか選択できるので、ストーリーを思い出すのにそれほど苦労しません。
この辺りはゲームならではの機能だと思いますし、時間がない「大人」でもしっかり楽しめるように配慮されています。
肝心のストーリーですが、「サスペンスもののテキストアドベンチャー(ノベルゲーム)」という性質上、ネタバレするとゲームが台無しになってしまうので、多くを語ることはできません。
ただ、登場人物の心理描写や感情をあらわにする場面は妙に「生々しさ」を感じさせるものでした。
その理由は、豪華声優陣の演技もさることながら、物語の中で展開される「人の心理の不可解さ」(心の闇?)が、「ひょっとしたら自分にもあるかもな・・・」とリアリティを伴う内容だったからだと思います。
冒頭でもお伝えしたように、私はクリア後に「人間の『正気』と『狂気』の境界ってのは、果たして明確に区別できるものなんだろうか?」「区別できるというなら、その境界はどこにあるのだろうか?」と考えずにはいられませんでしたし、そういう意味で没入感もありました。
また、「ファミコン探偵倶楽部」ならではの「らしい」仕掛けもちゃんと用意されていますし、とにかく最後までプレイすることをおススメします。
3 任天堂の「テキストアドベンチャー」について
「テキストアドベンチャー」に馴染みがない方向けの補足です。
(1)どんなジャンルか?
ゲームジャンルとしての歴史は割と古くて、任天堂タイトルとしては、
- ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島(ディスクシステム/前編&後編:1987年9月)
が皮切りです。
ちなみに、この「新・鬼ヶ島」は現在Nintendo Switch Onlineでプレイ可能です。
私はこのほか、次の6作品をプレイ済みで、要するに任天堂の「テキストアドベンチャー」の大ファンです。
- ファミコン探偵倶楽部 Part II うしろに立つ少女(ディスクシステム/前編:1989年5月、後編:同年6月)
- ふぁみこんむかし話 遊遊記(ディスクシステム/前編:1989年10月、後編:同年11月)
- 平成 新・鬼ヶ島(スーパーファミコン/1998年5月)のWii Uバーチャルコンソール版
- ファミコン文庫 はじまりの森(スーパーファミコン/1999年7月)のWii Uバーチャルコンソール版
- ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者(Nintendo Switch/2021年5月)
- ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女(Nintendo Switch/2021年5月)
残念ながら、この「テキストアドベンチャー」は、現在は主流のジャンルとは言えないでしょう。
しかし、任天堂の株主総会で質疑応答が出たり(2019年6月27日 任天堂第79期 定時株主総会 質疑応答Q7 参照)、任天堂経営層にもテキストアドベンチャーゲーム好きを公言する人もいたり(2021年6月29日 任天堂第81期 定時株主総会 質疑応答Q3 参照)など、私と同じように熱心なファンが多いのも事実です。
この点については、2021年にNintendo Switchで30年ぶりにフルリメイクされて登場した「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者/うしろに立つ少女」の2作が、どうしてリメイクされることになったのかという経緯にも表れています。
というのも、このリメイク2作は、MAGES.(メージス)というアドベンチャーゲームを多く手がけているゲーム会社の担当者が「ファミコン探偵倶楽部」の大ファンで、並々ならぬ熱意で任天堂にリメイクを提案し続けたから実現したとのこと。
(詳細は下記の記事を参照ください)
つまり、派手にヒットを飛ばすジャンルではないかもしれませんが、ストーリーで魅せるがゆえに “刺さる人には刺さるゲーム” というワケです。
(2)プロデューサーの坂本賀勇さん
そして任天堂のテキストアドベンチャーを語るうえで外せないのが、本作でもプロデューサーを務めている坂本賀勇さん。
岩田聡さん、宮本茂さん、小泉歓晃さん、青沼英二さんといった面々と比べると、さすがにメディア等への露出頻度は下がるかもしれませんが、任天堂ゲームを語るうえでも欠かせない方の一人です。
なんと言ってもメトロイドシリーズ、メイドインワリオシリーズ、トモダチコレクションシリーズの生みの親でもあります。
坂本さんの人となりや、手がけたゲームについてもっと知りたい方は下記のリンクを参照ください。
どれも読み物としても面白いですし、「ファミコン探偵倶楽部」のサスペンス演出(スリル、緊迫感)の源流を知ることができます。
4 最後に
販売価格が
- パッケージ版:6,578円(税込)
- ダウンロード版:6,500円(税込)
といういわばフルプライスなので、「もしストーリーが合わなかったらどうしよう」と心配する方もいるかもしれません。
しかし安心してください。
「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」ではストーリー序盤をプレイできる体験版が用意されています!
なので、お金の心配を一切することなく、お試しでストーリーが合うかどうかを確認できます。
ただし、「コマンド選択型のテキストアドベンチャー」なので、文章量はかなりのボリュームです。
そのため、「文章を読んで考える/選択肢を判断する」という作業が「どうにもこうにも面倒くさい」と感じる人は止めておいた方が良いでしょう。
それでも、「ファミコン探偵倶楽部」が30年ぶりにフルリメイクで復活を果たし、さらにレベルアップして登場したまさかのシリーズ最新作がこの「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」です。
「テキストアドベンチャー」のオールドファンの一人として、ぜひ体験版から始めてみてほしいと思います。
以上