契約審査以外にも、法務マンのところには様々な相談・依頼が飛び込んできます。
(ここで言う「法務相談」は、主に企業の法務部門が、会社ビジネスに関して、他部門から受ける法的な問題の相談を想定しています)
そこで、新人法務マン向けの契約審査の4つの心得と同様に、新人法務マン向けの法務相談対応の心得として3つのポイントをまとめました。
はじめに
法務相談は、例えば、契約書作成に関し「製本テープで綴じた方がよいか?割印は必要か?」といった事務手続的なことから、「~のケースで法令上の罰則があるか調べてほしい」(法令調査)とか、「今こういうビジネスの新規企画を検討しているんだけど、取引相手と何か契約を締結した方がいいか?使える契約書ひな型はあるか?」(ビジネススキーム検討)とか、「行政当局から何か通知書が来た!ナニコレ怖い!」(当局調査対応)といったSOSみたいな相談など、簡単なものから複雑・難しいものまで本当に様々です。
そして、この多種多様さゆえか、ときには相談者自身も何に困っているのか?、何が問題なのか?を把握できていないこともあります。
最初は「こんな雲を掴むような話にいったいどうやって対処したらいいんだよ・・・」と途方に暮れたものでしたが、10年法務をマンやっていると大抵のことには動じなくなりました。
ということで、これまでの自分の経験を踏まえ、新人法務マンが抑えるべき心得3点を解説します。
心得1 素人的発想を大事にする(事実確認の重要性)
新人法務マン向けの契約審査の4つの心得で書いた知らないことは自分が理解できるまで根掘り葉掘り聞くということにも通じるのですが、最初は雲を掴むような話だからこそ、無理矢理にでも枠=常識や素人的発想に当てはめて掴みどころを探って行くと、「枠にはまらない部分=何か特殊、異常」というその事案の特徴的な要素を抽出できて、問題を整理しやすくなることが多々あります。
例えば、私が勤めていた会社は自動車部品サプライヤーだったのですが、カーメーカー(得意先)の自動運転システムに組み込まれる高性能部品について、その部品の品質保証責任をどういう内容にすればよいか?という相談がありました。
法務マンは技術的にはド素人です。自動運転だって、最近急速に一般道での実地試験がどうだとか、自動運転中の車が事故を起こした場合の責任は誰が負担するのか?、といった点が問題になっていることは知っているが、確立された判例はおろか、法律の整備だって全然追いついていない。
さて、どうしたものか?
弁護士に丸投げ?それも悪くありません。
ただ、最新の問題・未知の問題なので、弁護士にただ丸投げしても、保守的で無難な回答しか返って来ないでしょう。
また、社外専門家への中継役というだけでは法務マンとしての付加価値がなく、何のために法務専任スタッフとして社内にいるのか分かりません。
新分野で確立された実務がないなら、既存の確立された実務をベースに考えるしかないでしょう。
- 製造物なのだから、結局は製造物責任(PL責任)の考え方が基本になるだろう。
- では、本件自動運転システム向け部品の欠陥(不具合、誤作動)って具体的にどんな現象になる?それはどんな原因で?
- 本来の性能(欠陥がない状態)は、「仕様」で客観的・具体的に(裁判で立証可能な事実として)特定可能なのではないか?(例えば、「対象部品から送信する信号は、〇秒に1回、~の内容で送信する」とか)
- だったら、「仕様」をより詳細・具体的にして、うちの会社が「ここまでなら責任を持てる」というラインを具体化させるのが良いのは?
などなど・・・
こんな感じの疑問を技術部門にぶつけ、根掘り葉掘り聞いて行きます。
「既存の実務をベースにする」「そもそもこの製品の欠陥って何(どういう状態)?」「どうしてそんな誤作動が起こるの?」「製品仕様はどうなってるの?」といった発想は、技術的な知識がなくても十分可能な素人的発想だと思います。
素人的発想に基づき上記の例のように深堀りできると、大抵は技術部門の人との間でも有益な議論が成立するし、これくらいの分析を踏まえた「仮説」を弁護士にぶつければ、弁護士もより具体的かつ詳細な分析を加えた回答をしやすくなります。
結果、検討が深まり、より良い法務回答=リスクを適切にコントロールしつつ事業を進めることができる回答に繋がります。
なので、素人的発想を大事にすると、重要な事実・前提条件の洗い出しをしやすくなります。
知ったかぶりが一番良くない、というか危険なので止めましょう。
心得2 法務知識だけでなく、税務などの周辺知識も大事
会社の法務マンはその業務の性質上、下記のような情報について他部門のサラリーマンよりは当然詳しくなるべきです。
- 基本法令(民法、会社法、労働法、独禁法など)の基礎知識
- 税務の基礎知識・発想(税務調査に耐えうる契約書か?、税務上適切なお金のやり取りか?といったレベル)
- 社会情勢(最近なら環境保護規制、個人情報保護、SDGsなど)
しかし、必ずしも個別法令・税制といった制度のスペシャリストである必要はなく、どちらかというと法務マンの付加価値は、上記の分野のやや専門的な法的知識、やや広めの一般常識、素人的発想を駆使して、会社ビジネスの法的課題、内部統制上の課題、想定されるリスクを具体的に抽出し、表現し、説明することにあります。
(心得1の分析例を参照)
それによって、社内の関係者(経営層、事業部門など)に法的リスクが正しく共有され適切な経営判断に役立つ、あるいは社外専門家からより建設的で踏み込んだ意見を引き出す(弁護士を上手く使う)、というのが法務マンの大事な役割です。
なので、私は、例えば「税務の話だと思うけど、自分ではよくわからないな。」となったときに、相談者に対し「税務の話なので経理に聞いてください」という対応はせず、なるべく自分で経理部に質問しに行っていました。
その方が自分の知識が深まりますし、スキル向上にも役立つと感じるからです。
ただし、あまりやり過ぎると、相談者によっては何でもかんでも法務に丸投げしてくるようになるので、その観点での匙加減はした方がいいですが。
心得3 相談相手のニーズを把握する
答えるべきことは何か?
解決すべき課題は何か?
ある意味当たり前ですが、契約審査と異なり、法務相談はアウトプット(回答)の形が決まっていないことが多いでしょう。
契約審査は「契約書」という明確なアウトプットがあるため、依頼者の目的意識(やりたいこと、実現したいゴール)が明確であれば、アウトプットの良し悪しの判断や修正方向で迷うことは少ないです。
しかし、法務相談は相談者自身が「『何が問題なのか?』をわかっていない」というケースが多々あるので、相談者の質問に形式的に答えるだけだと問題の解決に繋がらないか、解決に繋がるのかよくわからない作業だけ押し付けられる、といった悲しい事態になりがちです。
心得2でも書いたように、法務マンの付加価値は、会社ビジネスの法的課題、内部統制上の課題、想定されるリスクを具体的に抽出し、表現し、説明することにあります。
基本的には経験がものを言い、一朝一夕に身に付くスキルではありませんが、自分の経験値が足りないうちは、経験豊富な上司・先輩を上手く使って(ディスカッションして)経験不足を補うのが良いと思います。
というか、基本的に法務回答は「正しい」「適切」ということが要求されるので、そうすべきです。
まとめ
新人法務マン向けの契約審査の4つの心得と「新人法務マン向け法務相談対応の3つの心得」(本記事)を意識しながら日々の案件を誠実にこなしていれば、法務マンのスキル特性で書いたスキルは自然と身に付くと思います。
時間は必要ですが、法務マンのスキルを着実に磨き、有意義なキャリアパスを歩む人が増えるよう願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以上