スーパーファミコン全盛期の1994年2月19日に日本国内でファミコンソフトとして発売された「ゼルダの伝説1」(FC版、「初代ゼルダ」のロムカセット版)についてまとめました。
1 はじめに
1986年2月21日に発売された「ファミリーコンピュータ ディスクシステム」(以下「FCD」)のローンチタイトルとして誕生した「初代ゼルダ」。
この「初代ゼルダ」にロムカセット版が存在することをご存知でしょうか?
ゼルダシリーズ早見表1つは1987年に欧米で発売された “The Legend of Zelda” (Nintendo Entertainment System版、 NES版)。
(日本以外の地域ではFCDが発売されなかったため、「欧米の初代ゼルダ」はロムカセットで販売されました)
そしてもう1つは、スーパーファミコン全盛期の1994年に日本国内でファミコンソフトとして発売された ゼルダの伝説1 (FC版)。
前者の「The Legend of Zelda」(NES版)は、現在の欧米版Nintendo Switch Onlineで配信されていますし、そもそも「欧米向け初代ゼルダ」はNES版しかないなので今後も繰り返し移植・復刻されると思われます。
そのため、「欧米向け初代ゼルダ」が遊べなくなる心配はまずないでしょう。
これに対して、後者の「ゼルダの伝説1」(FC版)は少し状況が異なります。
というのも、日本版Nintendo Switch Online(以下「日本NSO」)で配信されているのは「FCD版の初代ゼルダ」なので、現時点で「ゼルダの伝説1」(FC版)を遊ぶ方法は以下の2つに絞られています。
- ① ファミコン実機+「ゼルダの伝説1」のロムカセット現物
- ② ゲームボーイアドバンス実機(or ゲームキューブ&ゲームボーイプレイヤー)+「ファミコンミニ05 ゼルダの伝説1」カートリッジ現物
2023年3月28日の「3DSシリーズおよびWii Uのeショップサービス終了」以前は「3DS VC版」が存在したのですが、現在はサービス終了により購入できなくなりました。
また、①は30年近く前のコンソール実機やソフト現物、②は20年前のコンソール実機やソフト現物を準備する方法であることを踏まえると、「ゼルダの伝説1」(FC版)を遊ぶのは結構ハードルが高いのは事実です。
そこで、この真正面から取り上げられることの少ない「ゼルダの伝説1」(ロムカセット版)=「もう1つの初代ゼルダ」を入手する価値があるのかどうか、その位置づけを改めて整理しておきたいと思います。
2 「ゼルダの伝説1」の概要
タイトル | ゼルダの伝説1 |
発売日 | 1994年2月19日発売 |
コンソール | ファミリーコンピュータ |
移植・復刻状況 | 【ゲームボーイアドバンス(GBA)版】 発売日:2004年2月14日 「ファミコンミニ」シリーズの5番目として「05 ゼルダの伝説1」として復刻販売された。 「ファミコンミニ」シリーズは、ファミコン生誕20周年にあたる2004年に、ファミコンソフトの名作(計20作品)をゲーム内容は基本的にオリジナルのままでゲームボーイアドバンス用として復刻したシリーズ。 【3DSアンバサダープログラム版】 配信開始日:2011年9月1日(2023年3月28日で配信サービス終了) 3DSアンバサダープログラムは、2011年8月11日のニンテンドー3DSの価格改定に伴い、改定前の価格で3DSを購入したユーザー向けに用意された補填サービスで、2011年8月10日23時59分までに3DSで「ニンテンドーeショップ」にアクセスしたユーザーが対象。 「ゼルダの伝説1」は3DSのバーチャルコンソール向けファミコンタイトルの「先行配信版」として、アンバサダープログラム対象のユーザーへ先行配信された。 【3DSバーチャルコンソール(3DS VC)版】 配信開始日:2011年12月22日(2023年3月28日で配信サービス終了) 「3DS VCのファミコンタイトル」の1つとして、上記の3DSアンバサダープログラムから3か月ほど遅れて正式配信開始。 「3DS VC版」も「3DSアンバサダープログラム版」も内容は同じ。 |
3 「ゼルダの伝説1」の価値検討
(1)FCD版との比較
何ごとも対象物の特徴や位置づけを把握するには「比較」が有効なので、FCD版と比較してみましょう。
FCD版とFC版の違いについては、下記の任天堂公式サイトで分かりやすくまとめられています。
『ゼルダの伝説 ゲーム&ウオッチ』のヒミツ。第1回「海外版ソフトも収録。日本語版との違い」編
内容自体は「ゼルダの伝説 ゲーム&ウォッチ」(以下「G&W版」)に収録されている初代ゼルダの「日本版」と「海外版」について、「①サウンド」「②フォント」「③ダンジョンの魔物」の3点を比較したものですが、①サウンドの違いは日本国内で発売された「FCD版」と「FC版」の違いとしてそのまま妥当します。
特に、「ゼルダの伝説 BGM聞き比べ」(YouTube動画)というタイトルで掲載されている動画は「日本版」と「海外版」のオープニングサウンドを順番に聴けるので分かりやすいですし、この動画に続いて下記の説明が記載されています。
当時、日本語版はファミリーコンピュータ ディスクシステム用のソフトでしたが、英語版はNintendo Entertainment System(ファミリーコンピュータの海外版)のカセットで発売されていました。ディスクシステム用の日本語版の方が、音源を一つ多く使うことができたため、この音楽の違いが生じています。日本語版はちょっと豪華なサウンドに聴こえますね。
『ゼルダの伝説 ゲーム&ウオッチ』のヒミツ。第1回「海外版ソフトも収録。日本語版との違い」編
実際、日本NSOの初代ゼルダを遊んでみると、オープニングサウンドにしてもハートが満タンのときに剣から出るビームの音にしても、「ビィィン」と響く(震える?)感じがするのがわかると思います。
いずれにせよ「FCD版」は「FC版」より音源が1つ多いので、一般論としてはFCD版の方が「豪華なサウンドである」とか「表現として豊かになった」と評価できるでしょう。
・・・しかしそうすると、「ゼルダの伝説1」は「FCD版」の劣化版にすぎないのか?という疑問が湧きます。
そこで、私は「すでにファミコン末期かつスーパーファミコン全盛期の1994年に、あえてファミコンのロムカセット版として『初代ゼルダ』を復刻した点に何か特別な意味があったのではないか?」と思い、当時の「ファミマガ」(ファミリーコンピュータMagazine、徳間書店)を調べてみました。
しかし、結論としては、こちらの観点でも「ゼルダの伝説1」は「FCD版」の劣化版という感じかなあと思いました。
- FCD版
「FCD版」は「ディスクシステム」のローンチタイトルですから、当然、広報・宣伝にもかなり力が入っていたことが窺えます。
例えば、「FCD版」発売前のファミマガ1986年2月号から同年8月15日・9月5日合併号までの12冊の間で、ほぼ毎回特集が組まれたり、「From京都任天堂『ゼルダの伝説Q&A』」=ユーザーからの質問に任天堂ゲーム開発者(一応、紙面上は宮本茂さんなども登場)が答えるという趣旨の企画が6回に渡って掲載されたりしていました。
(なお、当時はゲームメーカーによる「公式攻略本」というのはまだなかったと思いますし、任天堂自身が「ファミマガ」という第三者の媒体を通じてユーザーとやり取りしていたのは「時代」を感じさせますね) - FC版
これに対して、「FC版」の場合、ファミマガ1994年3月4日号において「ディスクの名作が帰ってきたぞ!!」という3ページの記事は見つかりましたが、内容はゲーム序盤の攻略情報を簡単に記載しているだけで、「復刻した理由」とか「開発者インタビュー」といった「発売経緯」を窺わせる情報は見当たりませんでした。
その他の露出としても、裏表紙で「(新作ソフト)ワリオの森」と「(名作ソフト)ゼルダの伝説1」が「ファミコンカセットで同時発売!!」という広告がある程度。
以下、個人的な推論ですが、「ゼルダの伝説1」が発売された1994年初頭前後は、以下のような状況だったという記憶です。
- スーファミ(1990年11月21日発売)は全盛期
- ファミコン(1983年7月15日発売)はすでに「旧世代機」とはいえ、「中古ソフト市場」も徐々に大きくなってきて、まだまだ「現役ハード」として遊んでいる子供も多い(少なくとも私はそうでした)
- 後のライバル機である初代プレステ(1994年12月3日発売)の姿はまだはっきりとは見えていない
そうすると、この時期は、旧世代機の「ファミコン」向け新作ソフトがバンバン出ることは期待できないものの、めぼしいライバルが見当たらない任天堂が「ファミコン」を打ち切る積極的理由もない、というタイミングだったのではないかと思います。
であるならば、「ディスクシステム」専用ソフトだった「初代ゼルダ」をファミコン用のロムカセット版として復刻するのも、「ファミコン」を盛り上げる方策としては悪くないだろう...
という感じだったのかなあと。
ということで、「ゼルダの伝説1」は「FCD版」の劣化版ではあるが音源が異なるなどの特徴はあるので、ゼルダファンとして「少し珍しいバージョン」という位置づけに魅力を感じるなら買い、というのが一般論としての評価でしょうか。
(2)RTA的な見直し
ただですね、、、
私、「日本NSO版」「3DS VC版」「G&W版」の各「初代ゼルダ」を遊んでみて、ある明確な「違い」に気づきました。
その「違い」を検証した動画(4分半程度)も作成したので、よかったらご覧ください。
そう、明らかに「日本NSO版」はロード時間が長いのに対し、「3DS VC版」の方が圧倒的にロード時間が短くてサクサクしているのです。
まあ、普通の人にとっては「だから何?」「そんなに大きなメリットなの?」という感じだとは思いますが、RTA(Real Time Attack、ただし英語圏では”Speed Run”が一般的)では結構大きな意味を持つと思います。
「初代ゼルダ」のRTAは走者が結構多く、今でも熱心に遊ばれているゲームの1つだと思いますが、記録集積サイトのランキング表を見るとその多くは「欧米の初代ゼルダ」(NESロムカセット版)を使用しています。
また、上位の記録の中には「ゼルダの伝説1」(FCロムカセット版)を使用しているケースも少数ながら存在します。
どうやら「日本語版」はゲーム内で表示されるメッセージが「英語版」に比べると短めなことが多く、タイム短縮の観点では有利な点もあるようです。
これに対して、「日本NSO版」は上位の記録の中には見当たりません。
おそらくロード時間の長さがネックになっているのでしょう。
RTAで、しかも世界ランクを狙うという遊び方は一般的ではないかもしれませんが、「初代ゼルダ」がRTAの中でも人気があるゲームなのは事実。
であれば、「やってみたい」と思う人は今後も出てくるでしょうし、「欧米の初代ゼルダ」にせよ「ゼルダの伝説1」にせよNES/FCの実機+ロムカセット版現物だけでなく、「ファミコンミニ05 ゼルダの伝説1」や「3DS VC版」といった「ゼルダの伝説1」の復刻・移植版には「ロード時間が短くてサクサクしている」という存在意義があるのは間違いないと思います。
※ちなみに、「G&W版」は「ロード時間の短さ」の点では一番優秀ですが、画面が小さいので「普段使いするのはちょっと厳しい」という感触です。
4 まとめ
ということで、もう1つの初代ゼルダ(=初代ゼルダのロムカセット版)の評価をまとめると以下のようになります。
- 一般論としては「『FCD版』の劣化版ではあるものの、音源が異なるなどの特徴を踏まえれば『少し珍しい』バージョン」という評価
- しかし、現在では「ロード時間が短くてサクサクしており、RTA向きソフトとしての存在価値は確実に高まっている」という評価
この記事が「NES/FCの実機+ロムカセット版現物」や「ファミコンミニ05 ゼルダの伝説1」などの購入判断のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以上