1 法務マンは稼げないのか?
私が司法試験に合格した2010年頃は 「弁護士は人数が増えて稼げない。年収は下がる一方。」 と言われていました。
ただ、似たようなことはもっと前から言われていた記憶で、まずは1991年(平成3年)に司法試験合格者の若年化を意図して始まった丙案(初回受験から3年以内なら通常の合格点に達していなくても合格になりうる優遇枠。)を皮切りに、「より社会に身近な司法を」という司法改革の大きな流れの下、毎年の司法試験合格者「数」自体が段階的に増えて行きました。
そして、私が司法試験の勉強を始めた2000年代以降、「弁護士は人数が増えて今後食えなくなる」「オワコン」というようなことが盛んに言われるようになりました。
現在もネットで検索すると、そのような記事や情報は比較的Googleの検索結果上位に表示されますし、自分も「一面ではそうかもしれないな」とも思います。
(ただ、2010年頃はまだ過払金返還請求案件がホットだったので、独立して間もない先生も含めて、それなりの収入を得ていた事務所が多かったような記憶です。)
一方で、たまにLINEに入る修習同期のメッセージの様子を伺っていると、みんなそこまで困っている感じはしません。
さて、この辺りは実際にどうなんでしょう?
ということで、少しデータを調べてみました。
2 「法務従事者」の平均月収(2020年6月)
何を見たかというと、政府統計ポータルサイトの「e-Stat」。
その中の「令和2年賃金構造基本統計調査」にある「職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」という統計データです。
その中で「法務従事者※」というカテゴリーで2020年6月の月収情報が記載されています。
※「法務従事者」は「賃金構造基本統計調査規則」に基づくカテゴリーのようで、同規則には「弁護士」「司法書士」といったカテゴリーが存在しないので、士業だけでなく会社の法務スタッフなど含むいわゆる「法律実務家」=「法務マン」を指すと考えられます。
そこで中身を見てみると、「きまって支給する現金給与額」(労働契約などによってあらかじめ定められている支給条件によって6月分として支給された現金給与額。手取り額でなく、所得税、社会保険料などを控除する前の額。)というのが「法務従事者」の平均月収と見てよさそうです。
そして、10人以上の組織での全体平均は以下の通り。
648.4千円
64万8400円/月ですね。
かなり良い方じゃないでしょうか。
ちなみに、当該データによると、男女計での全145職種のうち、1位:航空機操縦士(1228千円)、2位:医師(1102.3千円)、3位:大学教授(高専含む)(654.4千円)で、4位に法務従事者が入ります。
もう少しブレイクダウンすると、
- 企業規模1000人以上
519.7千円で、11位/145職種。
日本では所属弁護士が1000人を超える事務所はまだないはずなので、私のようないわゆる大企業の法務スタッフや、法務専任部署ではないが総務・経営企画・内部監査といった経営管理部門で法務機能を兼任しているスタッフがメインでしょう。
順位としても数字としても全く悪くないですよね。 - 企業規模100~999人
このゾーンではかなり上がって1155.2千円。
この企業規模ゾーンに日本の大手法律事務所や外資系事務所が入るので納得の数字です。
このカテゴリーだと法務従事者の月収は「医師」に次いで2位/145職種に入ります。
特に大手の法律事務所の若手弁護士(アソシエイト)は滅茶苦茶な働き方してますからねぇ。
ある意味、世間一般がイメージするエリート弁護士像がこのゾーンかも知れません。 - 企業規模10~99人
このゾーンではやや下がって464.5千円。
順位は6位/145職種。
ちなみに、このゾーンの1位は医師で、月収は1641.6千円=約164.2万円と、2位の歯科医師589.2千円の約2.8倍という大差をつけてぶっちぎりの1位です。
このゾーンはいわゆる中小企業になりますが、そもそも中小企業で法務機能を社内で抱えているところは少ないでしょうから、士業の先生方の一般的な事務所がメインでしょうか。
・・・さて、どうでしょう?
2020年6月という「点」だけを切り取った平均の数字なので、あくまで参考程度ではあります。
しかし、上記の月収データから読み取れるのは、
①全体で見ても、企業規模ごとに見ても、法務マンの収入は上位に入っている
②所属組織が大きいと収入も上がる傾向がある
といったところかと思います。
※なお、②について、法務従事者の収入が一番高いのは「企業規模100~999人」ですが、ここにはいわゆる日本の最大手クラスの弁護士事務所が入るので、「弁護士事務所」として見た場合は一番大きい企業規模ゾーンとも言えます。
②の傾向自体は法務マンに限らず多くの職種に当てはまる話ですし、一方で、どのような企業規模であれ、法務マンは相対的に良い収入を得られる傾向にあると考えられ、言うほど悪くないんじゃないかというのが私の実感です。
3 まとめ
最近は「弁護士の飽和」という事態を受けて司法改革当初の流れが断ち切られ、司法試験の受験者数は減少が続いているようです。
ロースクール(法科大学院)の数も、私が通っていた時期(2000年代後半)に比べると、かなり減ってしまいました。
その分、優秀な人たちは予備試験ルート(法科大学院に行かずに司法試験を受験できる制度)に流れているようですが、全体として見れば、法曹を目指す人は減少トレンドでしょう。
ただ、司法試験受験生時代も含め、司法修習生~法務マンとして20年ほど法務分野に関わってきた私としては、
「そこまで仕事に困るほどじゃない。法務のニーズは昔からあるし、少し視野を広げれば一生懸命法律を勉強してきたことが報われないなんてことはない。」
と思っています。
なので、現在、司法試験に限らず法律系の資格試験合格を目指して勉強に打ち込んでいる方々。
まずは頑張って試験合格を勝ち取ってください。
今あなたが目指している目標は決して悪いものではありません。
また、合格/不合格に関わらず、あなたが必死で勉強して獲得した法律知識・勉強スキルは、どんな道を行くにせよ、あなたのリターンに活かす(収入を上げる)方法は必ずあります。
試験勉強中は、まずは合格第一なので視野が狭くならざるを得ませんが、いつか受験生活を終えて実務の世界に出る際に、例えば、士業の事務所だけにこだわるのではなく会社の法務部門を目指す、あるいは総務・経営企画・内部監査といった法務機能と密接な関係を有する経営管理部門も視野に入れるなど、少し視野を広げてマインドセットを整えられると将来報われる可能性が高くなるはずです。
以上